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扉の外

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止まっている物体が動き出すためには、その止まっている物体に何らかの力が加わる必要がある。
多くの場合、変わりゆく環境から身を守り、少なくとも現状を維持しようという人間の欲求は、その人間を突き動かす強力で容赦ない心理的原動力となるものだ。
その結果として、人々が現状を維持しようともがけばもがくほど、人々は状況に飲み込まれていくことになるのだが。

修学旅行に行くはずだった高校生・千葉紀之が目を覚ますと、そこは密室で、しかもクラス全員が同じ場所に閉じこめられていた。
呆然とする生徒達の前に「人工知能ソフィア」を名乗る存在が現れ、ルールに従って生活する限りにおいて、皆の安全は保証されている、と告げる...

それはクラス・密室を国家と見立てたシステムによる社会のシミュレイション。
平穏を望み、平穏が崩れることを恐れ、そして時には「そこにはいない誰か」を救おうという大義名分をもって、自分たちは正しいことをしているのだと正義を行う人々によって始まるパワーゲーム。
環境が各人の精神状態に与える影響から個人レベル・団体レベルでの力関係や『世間』『宗教』の発生まで、そこに至る過程の一つを実に過剰現実的に描いていたと思います。
読み終わったときには背筋に冷たいモノが走りました。これが「強烈な不快感」というものでしょうか。
電撃小説大賞<金賞>受賞作品。なるほど、賞を取るには理由がある!
私としては「どう締めくられるか」ではなく「どのようにして状況が始まるのか」を読む小説だと感じました。
方向性は違いますが「十二人の怒れる男達」あたりが楽しめる人にはオススメかも?

<他に贔屓にしているライトノベル>
時雨沢恵一*(キノの旅, アリソン)
上遠野浩平*(ブギーポップ)
田口仙年堂(吉永さん家のガーゴイル*
成田良悟(バッカーノ*


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水無瀬 優 postmaster@katsura-kotonoha.sakura.ne.jp
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